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諏訪芸術祭PRE EXHIBITION in長野県 下諏訪町|アーティスト堀内伸二さんインタビュー ― 白隠と“見えないものの力”

先日のブログでご紹介した「諏訪芸術祭PRE EXHIBITION」が、2025年8月23日・24日の2日間、下諏訪町で無事に開催されました。

諏訪芸術祭PRE EXHIBITION開催!「下諏訪町富部(五官町) 古民家テナント」でアートと出会う2日間


江戸時代の古民家を舞台に、江戸期の禅画と現代アートが響き合う特別な時間となり、多くの方が訪れてくださいました。

今回は、この展示で白隠禅師の作品を担当された堀内伸二さんにお話を伺いました。
芸術祭の印象や下諏訪という土地の魅力、そしてテーマとなった「見えないものの力」について語っていただきます。

 

会場となった歴史ある古民家について

会場は下諏訪町富部区五官町に佇む江戸中期〜後期に建てられた古民家。現在、株式会社サンケイがテナント募集中の物件でもあります。

母屋と2つの蔵、池や中庭を備えた敷地は約252坪と広大で、庭先からは諏訪湖も望めます。改修では梁や木製建具など歴史的要素を残しつつ、水回りや断熱は現代仕様にアップデート。往時の趣を大切にしながら快適に使える空間となっています。

かつて高島藩の鷹匠・岡村家が暮らした由緒ある屋敷で、お殿様がお忍びで訪れた逸話や、天竜道人が匿われた歴史も残る特別な場所です。

堀内伸二さんについて

堀内さんは1958年長野県諏訪市生まれ。東京大学大学院で印度哲学を専攻し、インド哲学、比較思想の第一人者・中村元博士の側近として仕え、そのもとで学びました。博士の『大乗仏典概説シリーズ』全巻の編集を手がけるなど学術的な功績も多く、現在は日印文化交流ネットワーク事務局長を務めています。著書には『般若心経手帳』『白隠禅師生誕320年 白隠・禅と書画』などがあり、『仏教の事典』は第68回毎日出版文化賞を受賞しました。国内外で講演を重ねる一方、今回の芸術祭では白隠禅師の展示を担当し、24日には「白隠禅師の書画が語る世界」をテーマに講演を行いました。

アーティストの声を聞く 堀内伸二さんインタビュー

――今回の「諏訪芸術祭PRE EXHIBITION」に参加して、率直にどんな印象を持たれましたか?

「ロケーションが江戸時代にタイムスリップしたようで、それ自体が非日常に身を置いている感覚でした。古民家の梁や柱の重厚さ、畳に差し込む柔らかな光、木の匂いまでが作品を引き立てていたように思います。シュルレアリスム(超現実主義)を追求する現代アートの持つ鋭さと、江戸期の建物がもつ静けさや時間の厚みが対照的でありながら、不思議と共鳴していました。近代科学技術が急速に進んでいる世の中だからこそ、古民家の空気や時間の流れを余計に感じたのかもしれません。現代アートと江戸期の禅僧・白隠禅師の作品が同じ場にあることで、互いが響き合い、日常で忘れかけている目に見えない妙不可思議な世界があることに気づく今回ならではの展示になったと感じました。」

――江戸期の古民家を会場にすることで、作品の見え方や受け止められ方にどのような変化を感じましたか?

「場が作品の理解をより深めてくれたように思います。都会で行う展示とは違い、観客の集中力や体験の深さが増していました。庭先で行われた《混沌の首》のパフォーマンスは、建物を背景にすることで迫力が増し、空気や光の変化までもが一体となって観客の記憶に残ったのではないでしょうか。

室内で行われた琴の演奏も特別で、白隠の掛け軸を背に響く音が、時を超えた世界に誘うように感じられました。建物そのものが舞台装置のように働き、作品や演奏を引き立てていたように思います。」

――今回の展示では白隠の作品も公開されました。白隠と「見えないものの力」の関係について、どのようにお考えですか?

「現代アートの発祥には、西欧において無意識の世界を深く究明した深層心理学者・ユングの思想が大きく関わっています。つまり現代アーティストは、五官や第六感で感じられる美しさや

善、あるいは真実だけでなく、それらの奥底にある無意識の世界をアートを通じて表現しようとしています。非日常の世界に参入しようとする彼らの志向性は、禅と非常に親和性があります。と言いますのは、五感や意識は

もとより、さらには無意識の更に奥にある本当の「こころ」に触れるために、たいへんな修行をして悟りを目指しているのが禅ですから。

「白隠は、私たちが感じている、いわゆるの「現実」から、悟りってみて初めて知ることのできる「本当の現実」に至る修行の道程を示し、またその道程において現われて来る“見えないものを見る力”を

得させるために多くの墨跡や画を表しました。白隠禅師の作品は単なる宗教画ではなく、悟りに裏打ちされた心の奥にある“不可視の力”の具現化に他なりません。

今回の展示で白隠の作品を古民家の中に掛けたとき、建物の歴史や空気感も加わり、その力がより際立ったように思いました。そして現代アーティストの作品と並ぶことで、時代を超えて人間の精神がつながっている感覚を強く抱きました。白隠と現代アートが交差することで、過去と現在が響き合い、観客に『見えないものを感じる』体験が生まれたのではないでしょうか。」

――諏訪・下諏訪という土地でアートを発表することには、どんな意義や魅力があるとお考えですか?

「下諏訪は江戸時代の中山道と鎌倉街道が交わる歴史的な土地であり、現代アーティスト・松澤宥さんをはじめ世界的に知られる芸術家を生んだ場所でもあります。「ここに来ると、空気に神仏が溶け込んでいるという表現にぴったりあてはまる場の力を感じる」と、訪れた現代アーティストが等しく口にされる通り、時間を超え、深いところで現代と近代化される以前の江戸の文化が融合し、また人間と自然が重なり合う空気があり、諏訪湖や山々からの風や光までもが表現の一部になるように思います。

現代社会では “文化”は政治や経済、軍事に比べて後回しにされがちですが、本来、真・善・美という社会の質を決める役割を持つ文化は社会を支える根本的に大切な柱です。だからこそ、この下諏訪から文化を発信することには大きな意味があるのではないでしょうか。世界からも注目されつつある今、この土地の可能性をもっと広く伝えていけたらと思います。」

――最後に、二地域居住や移住を考えている人、または諏訪に関心のある人に向けて、芸術祭を通じて伝えたいことはありますか?

「人間は本来、自然と一体のもので自然と共に生きる存在です。けれど今は自然から離れがちになっています。結果としてそれは「自我」の肥大化をもたらし、大自然と一体の本来の「自己」を見失うことにつながります。だからこそ、田舎での暮らしや自然の中での生活は、とても大切な価値を持っているように思います。芸術を通じて自然や人とのつながり、更には本来の自己を見直すことは、これからの暮らしに必要な視点なのではないでしょうか。

今回の芸術祭のテーマである“見えないものの力”は、自我の肥大化をおさえ、自然や人とのつながりの中でこそ体感できるものです。下諏訪という場自体がそうした力を宿しており、地域の方々の協力や温かさも含めて、ここで暮らすことの豊かさを実感していただけるのではないでしょうか。短い滞在であっても心が癒やされ、長く住めばさらに人生を豊かにしてくれるはずです。」

地域とアートのつながり

今回の芸術祭を成功へと導いたのは、アーティストだけでなく地域の協力も大きかったといいます。
特に会場近くの若宮神社の方々が全面的に支えてくださり、そのつながりは県外から参加したアーティストたちにも感銘を与えました。

実際に参加した県外のアーティストからは「地域の協力、つながりが素晴らしい」との声が上がり、この芸術祭をきっかけに下諏訪への移住を決めた方もいたそうです。
アートイベントが単なる鑑賞体験にとどまらず、暮らしの選択にまで影響を与え、新しい人や文化を呼び込むきっかけになったことは、大きな成果といえるかもしれません。

おわりに

堀内伸二さんの言葉からは、古民家や白隠の作品、そして下諏訪という土地が持つ力が鮮やかに伝わってきました。
芸術祭を通じて見えてきたのは、アートが地域と結びつき、新しい価値を生み出す可能性です。

インタビューを通じて感じたのは、白隠の「見えないものを見る力」は、私たちの日常のすぐそばにあるということでした。
子どもたちの笑い声や成長の瞬間、風に揺れる木々や夕暮れの光――数値や言葉で測ることはできないけれど、確かに人を支え、生きる力になるものです。
普段の忙しさの中で見過ごしてしまう小さな出来事にこそ、白隠のいう“見えないもの”が宿っているのだと思います。

また、地域のつながりについても考えさせられました。
現代ではご近所付き合いが希薄になりつつあり、それはある意味で自由で気楽な生き方でもあります。
けれど本当に困ったときや支えが必要なときには、昔からの人と人とのつながりがかけがえのない力になると感じます。
深く結びつきすぎなくてもよいけれど、いざという時に手を差し伸べてくれる存在が近くにいる――それもまた「見えない力」のひとつではないでしょうか。

今回の取材を通じて、「見えないものの力」とは歴史や哲学の中だけでなく、私たちの日常や地域の中にこそ宿っているのだと改めて気づかされました。
快くインタビューに応じてくださった堀内伸二さんに、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

そして何より、このような芸術祭をこの古民家で開催してくださったことに感謝したいです。建物が持つ歴史や風格を活かしながら、たくさんの人に下諏訪の魅力を伝えてくれました。現在この古民家はテナントとして募集されていますので、もしご関心のある方はぜひ一度ご覧いただければと思います。歴史と文化が息づく特別な空間で、新しい物語が始まるかもしれません。

 

この記事を書いたスタッフ

maa

maa|営業

主に賃貸業務・事務を担当しております。お客様1人ひとりに対し懇切丁寧な対応を心がけると共に、日々向上心をもって業務に取り組むことを大切にしています。私は県内の出身ですが、就職を機に諏訪に住み始め、今年で4年目になりました。諏訪地域の美しい自然や風景が好きで、休日はよく写真を撮りに出かけています。おすすめスポットや自然に触れて感じたこと、日常の出来事や物件の最新情報まで幅広くブログに綴っていきますので是非ご覧ください。

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